技術情報

海外研修より(第7回)

感染症の管理について
 今回は感染症の管理について、マイコプラズマ性乳房炎を例にお話しします。
 マイコプラズマによる乳房炎は一般的な細菌性乳房炎とは性質が異なるため、大変な思いをされた方もおられるかと思います。その感染力と伝染力は非常に強く、搾乳時に作業者の手指や搾乳機械を介して乳頭口から侵入して直接乳房に感染するだけでなく、感染している鼻汁や分娩後の悪露から血液を介して乳房に移動することで乳房炎になることもあります。症状も一様ではなく、乳量の激減や泌乳停止に陥るような重い乳房炎を発症し廃用になってしまう場合や、症状をほとんど示さずに菌だけをばら撒いて他の牛に感染させる場合もあります。マイコプラズマは通常の乳汁検査では検出できないため、特別な培養法で検査する必要があります。また、十勝農協連が実施している定期的な(年3回)バルク乳検査で発見されるケースが散見されています。十勝農協連の検査は精度が非常に高いのですが、マイコプラズマ性乳房炎においては乳汁に常に菌が排出されるわけではなく、実は体のどこかに潜んでいるのに乳汁中に排菌せず、陰性と判断されてしまうことがあります(偽陰性)。そのため一度陽性となった牛がその後の検査で陰性と確認されても、本当に陰性だと確定することは非常に難しくなります。
 このようなマイコプラズマ性乳房炎の性質を踏まえ、この感染症の対策についてこれまでの考え方に当てはめてみましょう(図)。ここでの最終目標は『感染症(ここではマイコプラズマ乳房炎)による損失を防ぐ』ことです。そのための中間目標は(1)『牛群にマイコプラズマを入れない』(2)『(入ってしまった場合)広めない』です。さらにそれを達成するための中間目標は『感染牛を早期発見する』『感染牛を隔離、淘汰して非感染牛にうつさない』などです。そのための行動計画には『検査頻度を上げる』『搾乳衛生の徹底』などがあります。
 ミシガンでも、マイコプラズマ性乳房炎は日本と同様に問題視されていました。講義では120頭の牛群で1ヶ月あたりの分娩頭数が10頭の場合、週1回の検査を推奨していましたが、全てのバルクごとで毎日検査を行って導入牛や初産牛については全頭陰性を確認してから搾乳牛群に入れているという農場もあり、検査の頻度についても農場の規模や陽性率によって異なっていました。また、陽性牛の中でも乳房炎の症状を発症している個体は淘汰を推奨していましたが、その対応もマイコプラズマの種類(病原性の違い)によって異なっていました。


図:感染症の対策

 今回はマイコプラズマ性乳房炎を例に挙げましたが、他の感染症(SAなどの乳房炎や肺炎、サルモネラ感染症など)でも同じです。その感染症による損失をいかに少なくするかが最終目標であり、感染症が発生してから対応を始めるのでは残念ながら遅いのです。農場で問題となる感染症は、保菌牛が1頭いれば他の牛に感染を拡げ、また、気づかずに牛群内に蔓延することで被害はとても大きくなります。治療すればいい、いい薬はないかと考えるのは最善の方法ではありません。治療費や生産性の低下が大きな損害となることは言うまでもありませんが、マイコプラズマのようにワクチンがなく、治療の効果が得られない感染症も多々あることから、まず病原体を農場内に入れないようにすること、次に早期に発見して広めないようにすることがとにかく重要です。導入牛は、出来ることなら牛群にすぐに入れずに隔離して健康状態を観察し、感染症に係る検査結果が陰性と判断できるまで隔離飼育を続けていただきたいと思います。導入することがない農場でも、公共牧場への預託や野生動物の侵入などで病原体を持ち込むリスクはゼロではありません。このことから牛舎や作業道具の洗浄・消毒は、感染経路を断つ有効な対策になります。感染症によって行動計画(対策)は様々ですので獣医師とよくご相談ください。

(坂上・大和田)