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海外研修より(第2回)

Prevention(プリベンション)という概念~「予防」と似て非なるもの~

 英語で『prevention(プリベンション)』という言葉を日本語では『予防』と訳します。ミシガン州にいる間、私達は何度も『プリベンション』という言葉を聞きました。私達も研修に行く前には「アメリカの獣医は予防ばっかりで治療をしない」というイメージを持っていました。しかし研修を通して、日本語でいう『予防』と英語の『プリベンション』は似て非なるものだと気付きました。
『予防』とは悪い事態が起こることが前提で、それが起こらないようにすることを意味します。一方『プリベンション』は悪い事態が起こらないことが前提で、起こらないまま維持することを意味するのです。例えば人が健康でいられるように、運動をして、栄養のあるものを食べて、暖かくしてしっかり寝て、体力を保つことを『予防』とは言わないですよね?それは『自己管理=セルフマネジメント』と言います(図1、2)。ミシガン州の人達は『牛群管理=ハードマネジメント』を行うことで、『プリベンション』を達成しているのです。彼らの言う『プリベンション』とは『マネジメントをする』ということを意味していて、牛もマネジメントを行うことで健康な状態を維持できるのです。
 「アメリカの獣医は予防ばっかりで治療をしない」というのは大きな間違いで、「アメリカの獣医と酪農家は『治療の必要のない健康な状態を維持するマネジメント』=『プリベンション』をしっかりと行っている為、治療が少ない」というのが実際でした。「牛の風邪予防、産褥熱予防に全頭に抗生物質を投与する」なんてことは行われていませんでした。人間のセルフマネジメントに抗生物質の使用がないのと同じですね。
 では適切に牛群を管理するとはどういうことなのでしょうか。そもそも牛群とは?そこを整理してみましょう。


図1.プリベンション

図2.予防

牛群とは

 第一回で、ミシガンの酪農から受けた印象として、牛たちの状態が良好で体格が揃っており、健康を保っているとお伝えしました。牛の状態が揃っているということは、栄養要求量も同じだということです。
 栄養要求量とは。例えば一人のO L と、ほぼ同じ身長体重のアスリートがいるとします。その二人が、今日から同じ食事を同じ量食べればどうなると思いますか?アスリートに合わせればO L は太るし、O L に合わせればアスリートは痩せていきます。O L とアスリートでは『筋肉量や代謝が異なる』=『栄養要求量が違う』からです。でも仮に同一人物が何人も存在して、同じ食事を同量食べれば、体重の変動は全く一緒になるはずですよね?栄養要求量が同じというのはそういうことです(図3)。
 つまりミシガン州の牛たちは群を1 頭の牛(しかも優秀なアスリート)として管理できるレベルまで揃っているということです。そしてその牛群を管理することを「牛群管理=ハードマネジメント」と呼びます。
 日本ではどうでしょうか。日本の牛の“ 群れ” はO L とアスリートが一緒に同じ生活をしているような、色々な牛の集合と言えるのではないでしょうか。「良い牛ほどダメになる」という言葉を聞くことがあります。アスリート(良い牛)がO L に合わせた生活をしていれば良い結果を出すのが難しいことは想像できますよね(図4)。
それではなぜアメリカの牛達はそこまで良い状態で揃っているのか、適切にマネジメントするとはどういうことなのか。次回からはさらにそこを掘り下げていきます。

(坂上・大和田)


図3.郡

図4.個体の集合