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分娩前の牛をいかに飼うか

 乳牛は、分娩の前後で体内の状況が非常に変化します。ご存じの通り、分娩が近づくと乳房が張ってきて、仔牛を出産して、それから泌乳が始まります。外から見ただけでも、これだけの変化があるのですから、体内では別の動物へと言っていいほどの変化が、実は起こっているのです。では、この時期にどんな変化が起こっていて、どんなことに注意して牛を飼えばよいのでしょうか。

1 その前に、乾乳期とは?

 乾乳期は、泌乳期に酷使され、くたびれた、乳腺やルーメンをリフォームする時期です。また、乳牛自身も泌乳という労働から解放され、休息しつつ、替わりにおなかの中では胎仔をどんどん成長させていく時期でもあります。つまり、乾乳期は、泌乳期の終わりではなく、次の分娩、泌乳の準備をする大切な時期なのです。このためには、60日を目安とする乾乳期間が是非とも必要です。まだ乳がでるからといって、だらだら搾っているうちに、もうお産まで1ヶ月に迫ったなどと言うことでは、次の乳期で、牛の泌乳能力を十分に引き出せないばかりか、悪くすると産前産後の病気にかかっていつまでも搾れないことにもなりかねません。この乾乳期の最後の方、分娩の3週間前からは、特に、次の泌乳期の準備が本格化する時期であり、乾乳移行期と呼んでいます。

2 体の中では、なにが起こっているのか?

1) まず、喰えなくなります!(図1)
 お腹の中の胎仔は、乾乳期(分娩前の60日間で)にほぼ倍の大きさに成長します。従って、乾乳移行期にもなると大きくなった子宮が胃腸を圧迫するので喰えなくなります。喰える量は、移行期の3週間に、乾物で1/3程度減ってしまうのです。太った牛では、体の中にたくさんついた脂肪がさらに胃を圧迫して、この傾向はますます強くなります。

図1 乾乳移行期に乳牛に起こる変化

2) だけど、栄養はどんどん必要になります。
 胎仔が大きくなるためには、それだけ栄養が必要です。また、乳生産が始まれば(乳が張ってくれば)、これまた栄養が必要となります。栄養とは、炭水化物(エネルギー)とタンパク質のことです。喰えなくなるのに、必要な栄養量が増す乾乳移行期の牛は、ほっとくと当然やせてきて、乳熱、ケトーシス、四変などの病気になり易くなります。太った乾乳牛は、特に危険。太った牛ほどしっかり喰いこませて、乾乳移行期に、いかに牛をやせさせないかが一番重要になります。ここが農家の腕の見せ所!

3) エサに含まれるミネラルにとても敏感になります。
 乳の中にはたくさんのカルシウムが含まれるので、乳生産が始まれば(乳が張ってくれば)牛の体内からどんどんカルシウムが抜けていきます。カルシウムが抜け過ぎれば、分娩前後の腰抜け(乳熱)になるのは、ご存じの通り。これを防ぐには、牛の体内にあらかじめ蓄えられているカルシウムがどんどん使われなければならないのですが、乾乳移行期に、体外から入ってくるカルシウム量が多いと、実は、体内のカルシウムが使われにくくなってしまいます。従って、この時期には、逆に、エサのカルシウムを制限しなければならないのです。さらに、体内のカルシウムが使われにくくなってしまうことには、エサの中のカリウムが影響します。乾乳移行期に、体外から入ってくるカリウム量が多いと、やはり乳熱になりやすくなります(図2)。

図2 乾乳移行期での高カリウム飼料の影響

4) ルーメンを泌乳期のエサに合うように変えていかなければなりません。
 これは、牛を変化させなければいけないことですが、乾乳期の長い牧草中心のエサから、配合飼料の多い泌乳期のエサに合うように、乾乳移行期にルーメンの内壁を改造しなければなりません。ルーメンの内壁には、絨毛と呼ばれるイボがありますが、乾乳期の絨毛は短く、これを泌乳期の配合飼料の多いエサに合うように長く伸ばしてやらなければならないのです。この改造がうまくいかないと、四変をはじめとする病気になり易くなります。

3 では、どうすれば良いのか?

① まず、なんと言っても喰える牧草が必要です。

 ただでさえ喰えない時期なのですから、まず~い牧草ではますます喰えなく(喰わなく)なります。乾乳 移行期には、手持ちの中で最も良い(喰う)牧草を給与してください。ただし、極端にカルシウム、カリウム、タンパク質の高いものは、避けてください。飼料分析は必要です。

② 配合飼料は3~4㎏給与して。

 ルーメンの内壁改造のため、それから、栄養分を上げてやるために、乾乳移行期には配合飼料(穀物) は一日3~4㎏必要となります(乾乳前期でも2㎏は必要です)。これも、極端にカルシウムの高いものは、 避けてください。

③ コーンサイレージも給与して。

 エネルギー不足にならないために、コーンサイレージも利用してください。一日5~7㎏(フォーク一杯弱 )は喰えます。冬季はやや多めに給与します。

④ 高カルシウム、高カリウムのエサは避ける。

 乳熱を起こさないために、高カルシウム(ルーサン)、高カリウムの牧草、ビートパルプなどは給与しないでください。

⑤ 十分なスペースはありますか?

 乾乳牛は、時期によって頭数が増減する事が多いもの。施設の広さが一定ならば、過密な状態になっ てしまうこともあるのでは?飼槽や水場が狭ければ、弱い牛はいつも十分あたらないかも。分娩前こそ、ゆ ったりスペースが必要です。

 くどいようですが、乾乳移行期の最も重要な点は、出来るだけ喰わせてやせさせないということです。この飼い方を参考に、産前産後の病気を減らして、治療という時間とお金のロスを無くし、泌乳能力をうまく引き出してやりましょう。