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乳房炎の予防は乾乳期から

 乾乳期はそれまで働いてきた乳腺を一休みさせ、次のお産に向けての準備をするためにとても大切な時期です。一度、重度の乳房炎に罹患した牛は、損傷を受けた乳腺が完全には回復できないために生涯の泌乳能力を確実に低下させていきます。また、乳房炎治療後も潜在的に体細胞数の高い状態が持続したり、さらにその状態が続くと慢性乳房炎に移行し、そのまま乾乳を迎えてしまうこともしばしばあります。乾乳期はこのような泌乳期に傷んだ乳腺を効果的に治療、再生するのに絶好の期間であるといえます。通常、乾乳期間は最低50日必要だといわれています。乾乳時には乾乳軟膏を使用することが推奨されます。乾乳時に全頭全分房乾乳軟膏を注入することは、潜在性、慢性乳房炎の治療を行うとともに乾乳から約1ヶ月間の新規感染を軽減する上で重要な役割を果たしています。牛によっては感染しても持続的な高体細胞数を示さないものもいるので、泌乳期に臨床型乳房炎に罹患した牛や高体細胞数の牛のみの治療(選択的乾乳期治療)はすべきではありません。 

(1)乳房炎の多発時期は分娩後10日以内

 分娩経過に伴う臨床型乳房炎の発生率を図1に示しました。このように分娩後の臨床型乳房炎の発症は、分娩後10日までが最も多いといえます。また、昨年の乳房炎の死廃事故も分娩後2週間以内に一番多く起きています(図2)。したがって、この時期の乳房炎の発生を防除することは乳房炎発生全体を減らすために非常に有効であると考えらます。しかし、分娩後の発生は、分娩してからの感染がすべてでしょうか。実は乾乳期における新規感染の問題が大きく影響することがわかっており、分娩後の発生を減らすには乾乳期を含めた防除対策が必要なのです。

(2)泌乳期からの持続感染の治療

 乾乳期治療を効果的に行うためには、次のようなことに配慮する必要があります。まず、泌乳期中に乳房炎に罹患し、明らかにまだ乾乳時まで乳房炎が持続しているものは、ある程度、乾乳時に効果的な薬剤で治療することで乾乳期治療における治癒率を高めることができます。具体的には、乾乳前に再度乳汁の細菌培養検査を行い有効剤を選択、乾乳3日前より有効剤の乳房内注入と全身投与を行います。

(3)急速乾乳法(一発乾乳法)

 急速乾乳法については近年かなり普及してきましたが、断続的な乾乳方法よりもなぜ良いのかをきちんと理解している方は意外と少ないかもしれません。急速乾乳は、断続的に行う方法に比べ、乾乳準備期間が短いために乳房炎に感染する機会が少なく、不規則な搾乳刺激や過搾乳の危険性の増加、断続的な少乳量搾乳や水の制限によるストレスなどの問題を解消します。その方法とは、乾乳日の7日前より濃厚飼料の制限給与をし、通常通り搾乳を続けながら2日前になったら濃厚飼料を全廃にします。その間、事前に乾乳にする牛が乳房炎に罹患していないかどうかPLテスターなどで確認し、もし罹患している場合は、前述の方法で乾乳3日前より治療を開始します。乾乳当日は、搾乳後に乳頭口をアルコール綿花で消毒してから乾乳軟膏を衛生的に注入し、ミルカーの音が聞こえない乾乳舎へ移動して、その後は一切搾乳を中止します。そして、その後2~5日は濃厚飼料を全廃します。乾乳3日目に乳房の張りはピークに達しますが、そこで乳房に決して触れてはなりません。5日目頃から徐々に縮んできます。7~10日目にかけて濃厚飼料を少量与え、11日目より濃厚飼料適正量に向けて増加していきます。一般的な方法はこのようになりますが、当然、その時の牛のコンディションによって多少の調整が必要となります。

(4)乾乳期における新規感染の予防

 乾乳期の新規感染が起こりやすい最も危険な時期は、乾乳後乳頭口が完全に閉じるまでの2週間と分娩が近づき乳房が張ってその圧力で乳頭口が緩む分娩前2週間といわれています。
 それに比べ乾乳中期は乳頭管にケラチンが充填することで外からの細菌の侵入を阻止し、乳汁中の免疫グロブリン濃度やラクトフェリン濃度の上昇により乳房の抵抗力が増強するために新規感染が起きにくくなっています(図3)。したがって、乾乳期の新規感染の予防という点から考えると、乾乳後2週間、分娩前2週間の感染をどう抑えるかが重要となります。乾乳軟膏は、乾乳初期の危険時期は網羅することができますが、乾乳後期は効力が消失しているのであまり期待できません。そう考えると、乾乳軟膏を正しく使用しているところでは、むしろ分娩前2週間の管理が最も重要な時期といえそうです。乳房炎の発生は分娩後10日以内が最も多く、中でも環境性連鎖球菌による乳房炎が一番多く見られます。これは乾乳期の新規感染が関係しているといわれています。また、大腸菌においても分娩1~2週間前はそれに対する感受性が高くなり、この時期に感染すると分娩後臨床型乳房炎に移行するといわれています。したがって、この時期は乾乳軟膏でコントロールできない部分をいかに環境衛生、牛体管理に注意し、ストレスを軽減することでカバーしていくかが重要となります。乾乳軟膏の使用に加えて、乾乳期の危険時期を乾乳期用乳頭シールド剤でシールドする方法は、乾乳期の新規感染を減らし、分娩後の乳房炎を大きく減らすことができます。乾乳直前の乳牛33頭130分房を対象に乾乳期用ティートシールド剤ドライカウ(米ウエストアグロ社製、日本全薬販売)を使用して実験を行った結果では、乾乳後2週間と分娩予定2週間前から分娩するまでの期間、対角線上の乳頭2本を試験区(シールド区)とし、残りの対角線上の乳頭2本を無処置区として分娩後の細菌の保菌状態を調査したところ、保菌率は無処置区では64分房中20分房(31.3%)、試験区では66分房中8分房(12.1%)とシールド実施乳頭の方が有意(p<0.01)に保菌率の低い結果となりました(図4)。したがって乾乳期にこのような乳頭シールド剤を応用する方法は分娩後の乳房炎発症の低減に大きく貢献すると思われます。