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乳牛の遺伝改良を10倍楽しむ方法

 最近、人工授精の時にどの精液を付けるか聞かれて「なんでもいい」と答えていませんか?授精師さんを信頼しているから?それとも年2回(今年から年4回)の種雄牛評価成績で新しい種牛が次から次に登場してくるためよく判らないからなのでしょうか?皆さんの経営を支える大切な牛たちです、明日からは皆さん思い通りに改良してみませんか?そこで遺伝に関わる数字を読み、体型形質を見極め、改良を楽しむ方法をお教えします。

種雄牛評価成績の持つ意味

 国内ではNTPという総合指数でランキングが公表されますよね。家畜改良センターでは上位40位の交配を推奨しています。昨年度は国が補助金を出していましたよね。ではNTPとは一体何を意味する数値なのでしょう?

総合指数=4.5(産乳成分)+1.5(体型成分)
産乳成分=27(乳脂量)/(乳脂量標準偏差)+73(乳蛋白質量)/(乳蛋白質量標準偏差)
体型成分=15(肢蹄得率)/(肢蹄標準偏差)+85(乳房成分)/(乳器標準偏差)
乳房成分=0.32(乳器得率)+0.68{0.16(前乳房の付着)+0.10(後乳房の高さ)+0.28(乳房の懸垂)+0.35(乳房の深さ)+0.11(前乳頭の配置)}
<参考>  2004-2月評価の数値
乳脂量標準偏差:    16.04
乳蛋白質量標準偏差: 11.79
肢蹄標準偏差:      0.358
乳器標準偏差:      0.216
*各形質の評価値はEBV(推定育種価)
  日本(NTP) アメリカ(TPI) カナダ(LPI) オランダ(DPS)
乳量       17
乳脂量 20.5 18 14 7
乳蛋白量 54.75 36 43 34
泌乳形質(小計) 75.25 54 57 58
決定得点   15    
乳器 21.25 10 17  
肢蹄 3.5 5 11  
体積     4  
体型形質(小計) 24.75 30 32  
長命性   11 8 26
体細胞数   5 3 4
繁殖性       4
分娩難易       8
長命・健康性(小計)   16 11 42

 ちょっと世界の舞台を覗いてみましょう。図1-1を見てください、この画面で評価したい国を選択(アメリカ、カナダ、オランダ)します。“Next>>”を押して図1-2の画面に行きます。この画面の“Herdbook No”の欄に“jpnm”と入力し、下から2行目のソート条件でプルダウンメニューから総合指数(アメリカはTPI、カナダはLPI、オランダはDPS)を選択、“RUN Query”を押してください。日本の序列とは違った順位で並んで出てきますよ。育種価が変わることはないのですが国による改良の違いを理解、種雄牛選択の参考にできると思います。

図1-1 Dairy Bulls.com(www.dairybulls.com)

図1-2 Dairy Bulls.com(www.dairybulls.com)

図2 牛の理想型(HolsteinCanadaより)

では改良の進める上で参考にしてください 。

評価値から得られること

総合指数の持つ意味は分かりましたね。EBV(推定育種価)で表された数字は種雄牛或いは雌牛が次の世代に伝える遺伝形質の強さと理解してよいでしょう。つまり娘牛のEBVは父牛と母牛のEBVを足して2で割ったものになります。例えば『EBV.M+2000kgだから交配を考えている雌牛の年間乳量が8000kgならこの種牛で娘をとれば乳量は10000kgでるんだ』なんて計算をしてはいけません。EBVは後世に伝える能力の傾向であるからです。当然乳量プラスの大きい種を何代も掛け合わせていけば10000kg牛群に改良することができるでしょう。育種価が今ひとつぴんと来ない方は参考資料として娘牛の平均乳量、成分率も記載してあるので具体的にイメージするにはこれもチェックしてください。もうひとつブルブックや赤本で横棒グラフを見かけますね。線形形質をSBV(標準化育種価)で示したこのグラフは基準となる年(1995年)の平均的な雌牛に対して種雄牛がどのような影響を与えるかをイメージしています。種雄牛の長所、短所が一目瞭然と言うわけです。ほとんどの形質はグラフが右に長い方が優れているとされていますが尻の角度、後肢側望、乳頭の長さは±0が良いとされています。

どんな牛を作りたいのか

前項でお話ししたように種雄牛の評価値が判っていても娘に遺伝するのは半分です。種を付ける雌の影響はとても大きいのです。「成分がよくなる種を付けたのにさっぱりだ」などという声を聞きます。母の能力を無視してはいけません。個体の能力を十分把握した上で精液を選ぶ、これが大事です。しかし、それを個体毎にやっていては大変な作業になってしまいます。まず自分の牛群の傾向を掴んでください。泌乳能力については乳検をやっている方は細かな情報が得られるでしょうし、やっていなくても牛群改良という観点からバルクの成績からだいたいの傾向を掴み、自分の目標を立て、種雄牛を選びます。乳量、成分量、体型すべてを完璧に改良できる種牛がいれば簡単ですがそんなスーパーサイアーいませんよね。時には改良のためにある程度のリスクを犯さなければならなかったり、理想とする牛に出会うまでに何代も費やしたりするかも知れません。これぞ改良の醍醐味です。

ショー・カウに学ぶ

泌乳能力の数字については理解できましたね、つぎは体型です。長命連産性、経済効果に優れた体型とは一体?日量40~50kgも生産する乳房、それを支える四肢とフレーム、どんな体型が理想なのでしょう?カナダのホルスタイン登録協会ではツルータイプモデルを作成、ホームページで公開しています。(図2)を見てください。この絵、どこかで見かけたことはないでしょうか?以前はよく牛舎の事務室などに飾ってあったように記憶しています。これが理想体型なのです。乳房と体のバランス、つまり均整のとれた体型こそが健康的に生産を続けることの第1条件なのです。乳房だけが大きく、腰や後肢が貧弱ではその牛の将来はありませんよね。生の“ツルータイプ”を見たければショーを見に行ってください。「共進会なんて手間がかかるだけでお金にならんし、輸入精液ばかりで参考にならん」なんて声を聞きます。そうでしょうか?美しく仕上げられた外観や大きさばかり注目していませんか?十分に開張した肋、充実したルーメンをしっかりサポートする腹筋、下腹に張り付いた前乳房、後肢の付け根までしっかり付着し垂れることなど想像できない乳房の懸垂、その巨大な乳房を支える強い背腰と正しい角度を持った後肢、またお尻は繁殖性に大いに影響があるでしょう。これぞ高泌乳ながら健康で牛群に長くとどまることのできる均整のとれた理想の牛の体型といえるのではないでしょうか?暇を見て近くの共進会を見学してみてください。あなたの牛群の体型改良ポイントがつかめるかも知れませんよ。

改良の手法

具体的な日々の改良方針について解説します。何度も言いますがまず牛群の能力をどのように改良してゆくのか決めます。乳量ならとにかくEBVのMの数値の大きい種牛を、成分ならF,SNF、Pの高い種牛を選択します。診療所や農協の授精所では公表の都度推奨牛を選定しているのでその中から絞り込めばよいでしょう。何頭かの候補が決まったらその牛の線形をよく分析して弱点を頭に入れておきます、いざ授精の時に付ける雌の形質を判断して決して弱点を増幅させることのないように精液を決定します。また、最近では受精卵技術が普及し効率的に改良ができるようになっています。実際、種雄牛はほとんどがET生産です。北米から高能力、好体型で繁殖性の高い遺伝子を導入、受精卵を利用して飛躍的に子孫を増やす努力をしている方々も見受けます。また、大きな投資をしなくても自分の牛群の中で自分の理想とする優秀な遺伝子が見つかればその子供達を増やすことに受精卵を利用するという方法だってあるのです。