2009_駆虫のススメ of tokachi_nosai

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駆虫のススメ


 「寄生虫」という言葉を、皆さん聞かれたことがあると思います。その寄生虫もおおざっぱに分けると「外部寄生虫(ダニ、シラミ、ハエなど)」と「内部寄生虫」とに分かれます。
牛において、内部寄生虫とは、乳頭糞線虫・クーペリア・捻転胃虫・牛鞭虫・オステルターグ胃虫・毛様線虫・ネマトジルスなどいるのですが、主に胃や腸に寄生するものなので、これらをまとめて『消化管内線虫』と呼んでいます。 
今回、十勝青年獣医師集談会として、酪農大学と牛臨床寄生虫研究会のご協力を得ながら、この消化管内寄生線虫の駆虫試験を実施し、若干の知見を得ましたので報告させていただきます。
試験の概要は「十勝管内においてフリーストール式およびスタンチョン式において飼養されていたホルスタイン成乳牛に対し、乾乳期に消化管内寄生線虫の駆虫を行い、分娩後における繁殖成績および乳成績により経済的に評価する」というもので、もっと簡単に言うと『分娩前に駆虫薬を投与し、産んだ後の寄生虫卵数の推移や乳量、体細胞数、空胎日数、人工授精回数などを、投与した群としていない群、また飼養形態別での違いや変化を調査した。』というものです。
≪方法及びサンプリング≫
分娩予定日の14日前に、モキシデクチン製剤を体重1kg当たり0.1ml、牛体の背線に沿ってポアオン投与しました(以下、投与牛群)。比較対照群として、駆虫薬を投与しない群も作成し(以下、対照群)、両群において、採血と直腸便の採材を計2回行いました。1回目は分娩予定14日前(駆虫薬投与時)に、2回目は分娩後0~21日の間に実施しました。(表1参照)

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結果


1.糞便中の線虫卵数および線虫卵検出率

 糞便中の線虫卵数および線虫卵検出率をグラフ1に示します。全体の虫卵数の平均は15.1±2.8個/5gで、検出率は68.3%でした。投与牛群では、投与後において虫卵数は有意に減少しました。また、飼養形態別でみてみると、スタンチョン式の投与牛群の線虫卵数は、対照牛群のそれと比較して有意な減少が見られました。

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2.消化管内寄生線虫の種類

 投薬前における消化管内寄生線虫の種類を表2に示します。消化管内寄生線虫の分類では、クーペリア属が60.9%、オステルターグ胃虫が52.2%の牛から検出され、これら2種が優勢でした。飼養形態による顕著な差は認められませんでした。

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3.繁殖成績

 繁殖に関する成績を示します。グラフ2を参照ください。空胎日数は、両牛群に有意な差は認められませんでしたが、投与牛群において約8日間の減少が認められ、特にフリーストール式では24日間の短縮が認められました。
続きましてグラフ3を参照ください。人工授精回数は、投薬による影響を受けず、スタンチョン式では対照牛群の方が投与牛群よりも低値を示しました。


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4.乳生産に関する成績

6.gif(1)乳量
 牛群検定成績による分娩後おおよそ2ヶ月間(検定成績3回目まで)の乳量の推移をグラフ4に示します。全群の平均は34.7±8.0kgでした。投薬による顕著な差は認められませんでした。飼養形態別で比較すると、フリーストール牛群はスタンチョン牛群より有意に高い値を示しました。













7.gif(2)乳中体細胞数
 牛群検定成績による分娩後おおよそ2ヶ月間(検定成績3回目まで)の乳中体細胞数の推移をグラフ5に示します。全群の平均は117.7±31.9千個/mlでした。投薬による有意な差は認められませんでしたが、投与牛群の方が低く推移しました。

5.経済的効果

 駆虫薬投与による経済効果として、短縮された空胎日数から費用と便益の比を算出し表3に示します。投与牛における便益は一頭当たり8,460円と試算され、特にフリーストール牛群では一頭あたり27,300円の便益と評価されました。

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まとめ

日本において、成乳牛に対する消化管内寄生線虫の駆虫は、あまり積極的に実施されず、軽視されてきたと言えます。これは、搾乳牛に使用できない薬であることや、感染していても軽度なものであれば臨床症状を示さない、つまり不顕性感染が多いことに起因すると考えられます。しかしながら、欧米やオセアニアなどでは、成乳牛における線虫寄生が、甚大な経済損失を引き起こすことがすでに認識されていて、成乳牛に対しても駆虫が実施され、乳量の増加、乳質の改善および繁殖成績の改善があったことが報告されています。
今回の試験では、投与牛群の空胎日数が、対照牛群と比べて短かくなりました。このことから費用と便益の比を算出した結果、1:5.6となりました。つまり「駆虫薬1回投与分の金額より約5倍の経済的効果が認められた」ということです。これは特にフリーストール式牛群で顕著でした。乳中体細胞数は投与牛群の方が低値を示しました。今回の調査では産後乳房炎を発症した個体は、投与・対照群にかかわらず除外したため、駆虫により乳腺における免疫系において何らかの影響があったものと考えます。
一方、乳量や人工授精回数では両群に顕著な差は見られませんでした。これは、乳用牛の繁殖成績のより正確な比較、評価については酪農家ごとの飼養管理、条件も様々であることが一因しており、一概には比較できませんが、ある一定の効果はあったものと考えます。

 以上、今回の調査により、分娩予定14日前の線虫駆虫による経済的な効果、特に空胎日数の短縮および体細胞数の減少が認められ、生産性に対する利点が示されました。この消化管内線虫による症状は、普段なかなか見せないものですが、他の微生物や寄生虫と混合感染となったり、牛自体の体力が低下した時などに症状を増悪させることがわかっており、決して軽視できるものではありません。今回は、成乳牛での試験でしたが、仔牛・若牛では発育・増体に影響を及ぼすことが知られております。
 ただし、寄生している虫の種類や感染濃度、牛群の感染状況によっては今回のような結果とならないことも考えられますが、もし「駆虫なんてやったことない!」という方がいらっしゃいましたら、一度獣医師にご相談ください。

(この技術情報は、元十勝青年獣医師集談会の栗栖睦幸氏にご執筆いただいたものです)


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